よりもい記念の質問に答えます・その3 サングラスとかトイレとか
オープニングで女の子たちがサングラスを上げ下げしているシーンがありますが、あれは何をしているのでしょうか。
あれは…わかりません(きっぱり)。少なくとも私はあんなことしません。
とくに夏場の屋外では、天気のいいときはサングラスを外すことはありません。周りが雪や氷で真っ白で、極地の紫外線は強く、下手すると目に深刻なダメージを与えます。
壊れちゃうと昭和基地では入手できません。私は2016年の11月にamazonで注文して、私たちと交代する観測隊員あてに送ってもらいました。昭和基地に届いたのはクリスマスイブ。
もう一つは汚い話なんですが、トイレです。オープニングで野外にトイレを作っていると思われるところがあります。もしそうだとすると、マイナス何十度の世界で大小をすることになりますが、お尻は凍らないのでしょうか。
屋外には作らないです。トイレ用のテントか、それらしいお部屋を用意します。
野外に用意して天候が崩れたら、雪で埋もれたり使えなくなっちゃいますからね。
雪上車に牽かれて進むトイレ。走行中は使いません。暖房はないので、マイナス30度以下でがんばる、ということにはなります。出したものがすぐに凍ってくれるので、扱いは楽になります。
トイレ用のテント。夏場の野外活動に使うことがありますが、風に弱い。
おしりが凍ったり、はしませんね。外気に触れる顔が凍らないのといっしょです。でも、まあ、あまり長い時間、感慨にふけるような余裕はないですな。
よりもい記念の質問に答えます・その2 バナナで…?
南極ではバナナで釘を打てるのか聞きたいです。劇中では見事に失敗していました。冷凍庫でがちがちに凍らせたバナナで釘を打つのはテレビで見たように思います。
1977年のコマーシャルですね。なんでこれを女子高生が知っておるのか?
1977年CM エクソンモービル モービル1 バナナで釘が打てます
釘を打つ音や、バラの花が壊れる音は、たぶん画面とは関係なくあとから入れたものでしょう。
マイナス40度になると、バナナで釘が打てます、とのことですが、そもそも南極に生のバナナを持ち込むのは至難の業。次の隊が来たときの第一便で、ちょっと黒くなったバナナが届いて歓声が上がりました。きゅうりにせよ大根にせよ生鮮野菜・果物は貴重品、凍らせて釘打ちなんて考えもしなかったわ。
私の南極滞在中はマイナス35度くらいが最低でした。なんであれ凍らせれば、打ち込む相手次第で貫通するでしょうね、薄くて柔らかい板だとか、発泡スチロールとか。
あと雪上車で旅行するときにもルート(通過点)を設定するものでしょうか。
はい、雪上車のルートの設定は重要です。積雪が多くて、すぐに道標が埋もれてしまうようなところでは、交換がラクな竹竿を使います。
左側の人の足元に小さく見えているのが、雪に埋もれたルート旗、その左が新しく建てた旗です。2年もすれば、これくらい雪がつもります。
そして、雪は氷となって、旗竿を呑み込んだまま海の方に流れて落ちていきます。
雪があまり積もらないところでは、ドラム缶がルートの目印に使われます。
大陸の風は、いつもだいたい同じ向きに吹いています。調査につかうサンプルを汚さないように、ルートの風上は立入禁止です。
よりもい記念の質問に答えます・その1 ペンギン
おまたせしました。よりもい記念でお寄せいただいた質問に答えていきます。
ペンギンに数メートル近くまで近寄ってはダメ、でも向こうが近づいてくる分にはOKというような話がありましたが、実際そうなのでしょうか。ペンギンがこっちに寄ってくるようなことはあるのでしょうか。そして・・臭いのでしょうか。
環境省のwebサイトに"観察や撮影の際には、ペンギンや鳥は5メートル、アザラシは15メートル程度の距離をとりましょう。"と注意が書いてあります。観測隊員も基本的には同じように注意されています。
で、ペンギンにとって外敵は空からやって来る鳥(かもめの仲間)か、海中のアザラシ類か、なので、陸上には怖いものはないと思っているらしい。無警戒で散歩していて、人のいるほうに寄ってくることもあります。
こんなふうにばったり出会ったときは、べつに臭くはありません。
向こうから近寄ってきたらしょうがない、とはっきり言われるわけではないのですが、逃げ場がないこともありますし、野外で周辺の状況がわからないときに慌てて動くと危険なこともあるので、実際にはまあ、しょうがない。
「よりもい」における報瀬さんのように、うっかりペンギンに囲まれてしまうってことは、なかったですがね。
なお、科学的な調査をするときには、特別な許可を得て、近くまで行くことができます。南極観測隊員は例年、11月と12月に、卵を抱いたペンギンを数えたりする調査をします。このときは、ちょっと近くまでいかないといけません。
糞尿の香ばしいニオイはありますが、温度が低くて乾燥しているので、腐った匂いはしません。
彼らの死体も腐らないので、そのまま風に吹かれてミイラ化していきます。 最後はカラカラの粉になって海に降って、プランクトンのエサになるのでしょう。
5月19日(土)銀座の近くで講演します
5月19日(土)の朝10時から、銀座の近く、新富町の日本印刷会館で開催される「南極 & 北極の魅力 講演会」でお話することになりました。
主催は日本極地研究振興会で、無料。定員は100人だそうです。
聴きに来られる方は下のリンクから申し込んでください。
「オーロラ観測と生活」というタイトルで50分くらいの講演ですが、観測よりも観測隊員のくらしの紹介を多めに、という依頼をいただいています。
当日の講演は録画されて、後援する(株)クルーズライフのyoutubeで公開されます。
ネット上にずっと残るので、ちょっと緊張しますなあ。
# ”よりもい”関係でいただいた質問には、連休中に回答していきます。もうちょっとお待ち下さい。
講演のときもっていくもの
4月21日の午後、ゆうゆう高円寺南館で講演してきました。このとき持って行ったものを紹介しましょう。
左下にノートパソコン、電源ケーブルなど。2時間くらいのお話しだと、ノートパソコンのバッテリで十分なはずですが、万一にそなえてケーブルも持っていくようにしています。また、使用するパワーポイントはpdf化して、USBメモリにコピーして別途持参します。もしもPCが壊れちゃったとしても、pdfならPCでもタブレットでも借りてなんとかしよう、というバックアップです。動画は再現できないけど、何もなしで途方に暮れるよりマシ、ということですが、幸いまだそうしたピンチに陥ったことはありません。
南極で使ったヘルメット、帽子、冷凍庫作業用の手袋、それに防寒靴はまだ捨てずにとってあります。お子さまがいると、履いたりかぶったりして喜んでくれます。羽毛服は帰国する前に返却してしまいますが、極地研の広報にお願いすれば貸してくれます(送料はかかります)。
忘れがちな小物たちです。
プロジェクターにHDMI入力があるのに、現地にケーブルがない、ということが多いのです。オーロラ動画などは、なるべくいい画質でご覧頂きたいので、私物のHDMIケーブルを持っていくようにしています。
ハンコは、講演料をいただくとき、持参していないと厄介なことがあります。
南極観測隊員経験者が講演するときには、極地研究所広報室にお願いすれば、南極の氷を着払いで送ってもらえます。大きめのかたまりでやってくるので、アイスピックがあると、氷の音を聞くときにとっても便利です。
紙コップに砕いた氷と水を入れて、何万年か前の空気のはじける音を聞いていただいています。
これだけのものを持って、電車やバス、あるいは自転車で移動します。一枚目の背後に写っている、赤い大きな登山用のリュックサックが活躍するのです。
街を歩いていると、だいぶ変な人、ですが。
今週のお題「カバンの中身」