富士山の仕事と南極の仕事
今回の出張では、7月に設置して観測していた機器を取り外して運び下ろしてきました。
8月24日、25日ともにいいお天気に恵まれて、順調に仕事がかたづきました。
富士山の一番高い所、剣ヶ峰が火口の向こう側に影を落としています。
2004年に無人化されるまで70年以上、富士山頂では人による気象観測が続けられていました。気象庁から南極観測隊に派遣されるためには富士山での勤務経験があると有利、と言われていたころもあります。
富士山は気温が低く、風も強く、水がとても貴重、と極地に似た条件ではありますが、気圧が低い、というのが昭和基地とは決定的に違います。
すこしあるいても息切れがする、重い物を運んでいると立ちくらみがする、など空気が足りないことを実感しました。一晩寝ればだいぶ慣れますが、長く横になっていても眠りは浅く、山を下りてもしばらくは身体にダメージが残っている感じです。
この本によると、何日も滞在した測候所員でも、風邪などちょっとした不調から意識がおぼつかないくらい重大な高山病になったことがあるそうです。まして、一ヶ月ぶりに山を上がってくる素人ですから、前の晩はお酒を飲まずに早寝して、体調には気を遣いました。
この本は、測候所で勤務している職員の日誌が元になっています。「こんな危険な、しんどいところで観測を続けていく意義があるのか?」という記述もありました。
富士山での観測は、主な目的が高所の気象観測からレーダーによる台風の監視へと移り、気象衛星など代わりの手段が得られたことで測候所としての使命を終えました。
そして今は、高所の大気中の化学物質の調査など、ここでしかできない観測が研究者によって行われています。
そして、「ここでしか見えないものを見る」ために寒いなか、世間と隔絶された環境で南極観測が続けられています。