世間がもし30人の基地だったら

日本南極地域観測隊に参加して、2015年12月に日本を出発しました。昭和基地で南極の冬を過ごして、2017年3月23日に帰国しました。帰ってからも南極に関わることがときどきあるので、更新を続けています。

アイスランドへ行ってきます

成田空港のラウンジで更新しています。これから、アイスランドへ行ってきます。

 

アイスランドのフッサフェルという町に国立極地研究所の観測拠点があります。

ここは、南極・昭和基地地磁気的な反対側にあって、昭和基地と同じ時に、鏡に写ったような対象的な姿のオーロラが見えることがあります。

共役点オーロラ − アイスランドと昭和基地

ここに新しい観測装置を設置するのが今回の仕事です。

 

20日に現地について、24日に帰途につきます。ちょうど新月に近い頃なので、オーロラが見られたらいいなあ。

 

日本からアイスランドへの直行便はありません。今回はデンマークコペンハーゲン経由で、ここに写っているスカンジナビア航空(Scandinavian Airlines System, SAS)に乗ります。

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トイカメラ風に撮影してみました。

生産システム懇談会で講演してきました

16日の午後、上智大学で開催された「生産システム懇談会」例会で講演をしてきました。この懇談会は生産システムに関連した大学の先生、企業にお勤めの方、会社経営者など技術者の集まりで、30年以上の歴史ある会です。

「南極・昭和基地から探る地球の電磁的環境」というタイトルで、観測隊の紹介からオーロラの仕組みまで、ちょっと理系要素多めで資料を準備していたのですが、一週間前に話題になった太陽フレア発生に対応して、「GPSの誤差が大きくなる」、「停電があるかも」といった影響がなぜ起こりうるのか、という説明を追加しました。

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こどもたちにもわかるような話をするのも難しいのですが、知的レベルの高い方々に講演をするのは、刺激的な体験です。鋭い質問をいただいて”どきっ”としましたが、いい質問は講演のご褒美だと思っています。

 

【隊員むけ】持ちものアドバイス

(今日の記事はものすごく対象者がすくないのですが、ごかんべんのほどを。)

59次隊出発まで2ヶ月あまりになりました。仕事の荷物の取りまとめも大変ですが、そろそろ私物も準備をはじめるころですね。一昨年の10月には、パンツの数など真剣に考えてましたなあ。 

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 

このブログ、これから南極に行く人も読んでいるそうなので、個人的なおすすめ品をいくつか書いておきます。

  

・登山靴

 雪の少ないときに歩くには、長靴よりも快適です。

・登山用ストック(2本組)

 散歩にも重宝ですが、足首をくじいたときに助かりました。

・耳栓

 「しらせ」船内や夏宿舎でのいびき対策だけでなく、野外活動で長時間ヘリコプターに乗るときにも。

・予備のメガネと腕時計

 とくに越冬隊員は、古いものでもなんでも、手元にあるめがねは全部持っていくべし。腕時計も安いものでいいから予備を用意しておきましょう。

・紅茶、お茶、きゅうす、コーヒーなど

 「しらせ」の中では24時間、熱湯をもらえます。給茶機もありますが…ね。

・雨傘

 盲点でした。昭和基地では使うことはたぶんありませんが、往復の寄港地(フリーマントルシドニー)で雨降りだと便利です。現地で買うにしても、お店まで濡れていかないといけませんからね。

  今年3月、帰途に寄港したシドニーは雨模様でした。

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それから、モノじゃないけど・・・

・越冬隊員は、平日に時間を作って税務署に行くことを強くお薦めします。

 おカネのことはひとりひとり違うので、確定申告のやりかたなど、あらかじめ相談しておいたほうがいい。この時期はそんなに忙しくないので、税務署の方々は親切に話を聞いてくれるようです。

 わたしはこのあたりの詰めがあまくて、かみさんにだいぶ迷惑をかけました…。

次の太陽フレアはいつ?

9月7日に発生した太陽フレアの影響で、北海道ではオーロラのような赤い光が見えた、との報道がありました。

www3.nhk.or.jp

月が昇ってくる直前に撮影されたそうです。

「限りなくオーロラに近い現象だと思う」というコメントがありますが、これはオーロラか「大気光」という発光現象か、区別をつけづらいということだと思います。大気光とオーロラは、光るしくみは同じなので、画像だけでは判断が難しいのです。

日本で撮影された大気光の例はこちらで見ることができます。

AstroArts: 投稿画像ギャラリー: キーワード「大気光」の検索結果

 

太陽の自転周期は27日くらいです。フレアは太陽表面での爆発現象ですが、その「噴火口」の場所が、27日くらいしたらまた地球の方を向いてくることになります。同じようなところから噴火するとは限りませんが、確率は高くなります。

ですから、10月4日ごろに次の太陽フレアがニュースになるかもしれません。でも、また月が大きいんですよね。10月4日の月齢は13.9、満月の1日前くらいになります。月の満ち欠けは約29.5日でひとまわりします。太陽のひとまわり日数に近いので、なかなかずれてくれません。

 

10月4日ごろ、昭和基地では日の入りが夜7時、日の出が朝5時くらい。そろそろオーロラ観測の終わる頃です。昨年の昭和基地、月ごとのオーロラの見え方はこんな感じです。10月は昼が長くなって観測できる夜が少ないのですが、その他の月は、お天気が悪いと棒グラフが短くなります。活発、そこそこ、しょぼい、というのは見た目の感じです。

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http://polaris.nipr.ac.jp/~aurora/optical.obs/jare.opt.main.htmlで公開されているデータから作ったものです。

 

太陽フレアで停電?

9月8日、夕方の電車の中に「今夜は北海道ではオーロラが見られるかも」と話しているおじさんがいました。 

9月7日の夜には昭和基地でも明るいオーロラが出ていましたが、やっぱり月明かりに負けてしまっています。月の満ち欠けは南極でも日本でも同じなので、今夜、北海道でオーロラを見るのは難しいんじゃないかと思います。

 

昭和基地の全天オーロラ画像は、ここから見られます。

Syowa all-sky camera

 

太陽フレアによって大規模な停電が起きるんじゃないか、という記事もありますが、なぜ停電するのか、わかりにくいですね。

激しいフレアがおこる

→高いエネルギーの粒子が地球に降ってくる

→地球の磁気が乱れる

→”電磁誘導”によって長い送電線に意図していない強い電流が流れる

→電気設備が壊れる。

 というステップで、停電になった例があります。

 

 2015年に、経済産業省に「太陽フレアによる地磁気誘導電流にする調査検討委員会」が設置され、私も委員を務めました。気象庁を辞める直前のお仕事でした。

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太陽フレアの発生によって、どれくらいの電流が送電線に流れるか、予測する技術はまだ不十分です。今回のフレアによる影響も貴重な事例になるはずです。