世間がもし30人の基地だったら

日本南極地域観測隊に参加して、2015年12月に日本を出発しました。昭和基地で南極の冬を過ごして、2017年3月23日に帰国しました。帰ってからも南極に関わることがときどきあるので、更新を続けています。

失敗を活かすために

5月11日、南極観測審議委員会の宙空圏専門部会にオブザーバーとして出席してきました。「宙空圏」というのは私が担当していたオーロラやレーダーなどの観測分野のことです。この会議では、観測隊の報告と自己点検などについて話し合われました。

計画、実行、事後の評価、改善という、いわゆるPDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)をきちんと回していくために必要なステップです。自己点検では自分たちが越冬中にした失敗なども評価されることになって、ちょっとツラいこともあるのですが…次代のために、ぼくたちの失敗を役立ててくださいな。

今、昭和基地で越冬している58次隊の現況報告もありました。ブリザードは多いけれど、雪はそんなに積もっていないらしい。このままドカ雪にならずに冬を越せるといいですね。

 

夜には極地研の宙空部門のみなさんが帰国歓迎会を設けてくださいました。

 

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写真について考える

南極で活躍してもらった一眼レフカメラと交換レンズを処分しました。

このカメラで撮影したのは6800枚くらい。とくに魚眼レンズには、オーロラ撮影などで大活躍してもらいました。 

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カメラは大好きですよ。中学生から高校生にかけては暗室でフィルム現像したり、印画紙に引き伸ばしたりという、字義のとおりに暗い趣味にふけっておりました。ずいぶんと時間とお金を注ぎ込んだものです。でも、国内では一眼レフカメラを持ち歩くことはあまりないだろう、と考えてコンパクトカメラだけを手元に残しました。家人が拍子抜けするくらい、あっさりとしたものでした。

 

わたしの考えるいい写真、というのは、一枚で物語が完結しているものです。たとえば、わたしの好きな写真家の白川義員さんや前田真三さんの作品では、北アルプスがどうだった、美瑛町はこうだ、といった説明は無用、むしろじゃまです。

一方で、わたしの撮ってきた写真のほとんどは、解説する文章とセットでないと成立しないものだと考えています。なかなか”いい写真”は撮れないなあ、と(ようやく)自覚した、といったところでしょうか。

 

出発から帰国まで1万枚以上、撮ったはずですが、”いい写真”に近づけたと自分で思っているのは、この2枚です。

 

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とは言っても、一枚目は「流れ星が写ってますよ」という解説が必要かな。

結論としては、やっぱり写真は(自分には)難しい、です。

本棚を練る

「しらせ」から荷物を持ち帰って2週間あまり、ようやく荷物が収まってきました。

本棚が復活したのがうれしい。

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我が家ではスライド本棚一つだけが本の収納場所になっています。上の写真に写っているのは3分の2くらい。

ふつうのお家よりも本はかなり多いと思われますが、ここからこぼれた書籍は、処分しないといけません。

限られた中に、とくに読み返したい、手元においておきたいものが残っていくので、お気に入りの本ばかりが揃った本棚ができあがります。

 

昭和基地にも、本はたくさんあって、いろいろと興味深いものを読みました。「エースをねらえ」や「ベルサイユのばら」を通読する、なんてのは国内ではできない、しないでしょうね。

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 こんな雑多な書棚も悪くないですが、どの一冊を取り出してもお気に入り、という本棚は、わたしにとっては日本での生活に欠かせないものです。

 

講演・大宮シティロータリークラブ

 26日の夜、大宮シティロータリークラブの例会にお招きいただいて、講演をしてきました。

タイトルは、「南極・行ってみたらこんなところだった2015-2017」。

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45分間、動画などを交えてお話してきました。まずまず好評を頂いたようでなによりでした。 

 

ところで、極地研究所では、南極観測隊経験者が講演をするときにおねがいすると、南極の氷、冊子などの資料を提供してもらえるほか、防寒着なども貸してくれます(衣料品は講演のあと、送り返すことになっています。)今回も主催者にお手配を頂いて、氷と防寒グッズを展示できました。

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展示用に貸し出されるのは中古品です。羽毛服にはクリーニング屋さんのタグが着いていました。防寒靴には名前が書いてありましたね。

 

ところで、一昨年の11月、出発前に講演したさいたま欅ロータリークラブの方が何人か足を運んでくださっていました。

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 このときのプレゼンのスライドを3つほど、使い回したので、ちょっと冷や汗…。

初代南極観測船「宗谷」は小さい!

4月12日に、「しらせ」で運んできた荷物を受け取りに出かけてきましたが、停泊地の大井ふ頭から船の科学館へは10キロメートルほど。

南極観測船「宗谷」│船の科学館公式、ホームページ

 せっかくの機会なので、ちょっと寄り道してきました。 

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ちいさい! 昭和基地の近くにまで行けたとは想像できない。「奇跡の船」と呼ばれるのも納得です。

 

艦橋も「しらせ」と比べると、窮屈なくらいに狭いです。

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nankyoku-30nin.hatenablog.com

 

「しらせ」で40日あまりを過ごした経験からすると、よくこんな船で南極に行けたなあと感心します。そして、 当時の隊員・乗組員の心境が思いやられました。たどり着けるかどうかがわからないのはもとより、氷に閉じ込められたらこの空間でひたすらに待つのか…。