世間がもし30人の基地だったら

日本南極地域観測隊に参加して、2015年12月に日本を出発しました。昭和基地で南極の冬を過ごして、2017年3月23日に帰国しました。帰ってからも南極に関わることがときどきあるので、更新を続けています。

小学校でキャリア教育

6月24日の土曜日に、杉並区立沓掛小学校で南極の仕事についてお話しをしてきました。沓掛小では毎年、6年生の「総合的な学習の時間」の中で「お仕事見本市」という時間を作って、職業のお話しを聞く学習をしているそうです。今回は南極観測隊のほかに、ファッションデザイナー、農業、パティシエなど、あわせて12の職業紹介がありました。

キャリア教育としてのお話なので、お子さんによろこんでもらえるペンギンの動画などは無し。自分の担当としてのオーロラ観測と、観測隊全体の仕事について紹介しました。

f:id:nankyoku_30nin:20170629055533j:plain

(写真は沓掛小学校支援本部から頂きました。)

 

こどもたちは6人くらいの班に分かれて、2つの職業について話を聞きます(講師は25分のお話を2回、します)。みんな熱心にメモを取っていて、えらいなあと思っていたら、聞いた話をまとめて発表するのだそうです。そのプレゼンを見てみたいものですね。

 

少人数で講師との距離も近いからでしょうか、質問はたくさんいただきました。

「食料の補給は何回ありますか?」と聞かれて、

「年に1回、船で運ぶだけですよ」と答えると、びっくりして絶句してました。

 

自分が小学生の時にこんな授業があったら楽しかっただろうなあと思います。南極観測隊の仕事は、彼らにとってどんな風に見えたのかな。

第59次南極地域観測隊員、同行者が発表されました

今年の11月に日本を出発する、第59次南極地域観測隊員、同行者が報道発表されました。

第59次南極地域観測隊員等の決定について:文部科学省

厳しい健康診断をパスして隊員名簿に載ったみなさん、おめでとうございます。

私の場合は、隊員として決定がでたのは、出発まで3週間あまりになった11月9日でした。

nankyoku-30nin.hatenablog.com

隊員の正式決定をする南極地域観測統合推進本部総会は年に2回、6月と11月(または12月)に開催されるので、6月に健康診断等の結果が間に合わないと、出発直前になってしまうのですね。

 

最近、このブログの「注目記事」に、昭和基地の夏宿舎の記事がエントリーされてきているので、59次隊員も読んでくださっているのかしら。

ここでひとつ、小さなアドバイスを。

「お買い物は計画的に」

私物の荷造りに間に合うように、時間的に余裕をもって用意しましょう。それに、日焼け止めなどは日本の夏のうちに準備しておかないと、出発直前になったらなかなか見つからなくて苦労しますよ。

 

 

 

 

南の島でなつかしい袋を見る

父島への出張は6月16日に出発して、21日に帰ってきました。気象庁は小笠原の梅雨入り梅雨明けを発表していませんが、ずっとぐずついた天気で、ほとんど青空を見ることがありませんでした。

曇り空の下、港で見覚えのある袋が並んでいるのを見ました。

f:id:nankyoku_30nin:20170621182906j:plain

タイコン、という折りたためる袋で、昭和基地ではゴミの持ち帰りに使っていました。

 

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 

父島でもこれにゴミを詰め込んであります。後ろに写っている青い船で運んで、本土で処理するそうです。

こちらは圧縮した空き缶をフォークリフトで運搬中。

f:id:nankyoku_30nin:20170621182920j:plain

こうした荷役作業を見て「懐かしい」と思うのは、だいぶ世の中の感覚と外れてますなあ。

南の島でシロクマについて考える

小笠原諸島の父島に出張してきました。父島を含む小笠原諸島世界自然遺産に登録されています。それは、海や自然がキレイだからではなく、この島々が過去に一度も大陸と地続きになったことがないために、風や海流や鳥によって運ばれてきたさまざまな生きものがここにしかない姿を保っているから、だそうです。
この写真の右手前に写っている"タコノキ"。根本に広がっているのは人が立てた支柱ではなくて、根をタコの足のように広げているものです。

f:id:nankyoku_30nin:20170621180807j:plain


独特の進化を遂げた環境に、そこにいない生きものを持ち込んでしまうと、固有種がたいてい負けます。食われたり、植物だと生えている場所を占拠されたりするわけです。対策として、たとえば野生化した猫を捕まえるための箱が道路の脇の林の中においてありました。

f:id:nankyoku_30nin:20170621180828j:plain

猫がこの箱に入ったら、金網の扉がぱたんと閉まるのでしょう。

 

森の中をうろつく猫が減ったおかげで、固有種の"アカガシラカラスバト"が増えてきているそうです。この写真は宿の近くを散歩していて見つけたもの。

f:id:nankyoku_30nin:20170621180842j:plain

人里の近くで見られるとは思わなかった。

私自身、外来生物については知識はあったものの、あまり関心はなかったのです。
しかし、今回、往路の船中で関連するパンフレットを見ていて、「そういえば南極も似たような環境にあるなあ」と思い当たりました。
5月25日の代理人更新の記事にhrktmrさんから「南極にはオオカミ、シロクマはいなく、北極にはいるんですね。その違いはなんでしょう?」というコメントを頂いていましたが、その答えはやはり「北極には歩いていけるけど、南極には来られなかった」ということであるようです。

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 
でも、たとえばシロクマを何頭か南極に持ち込んで、ペンギンやアザラシをエサに繁殖を始めたら、と考えると…外来生物の怖さがわかるような気がします。

・・・57・58・59

第59次日本南極地域観測隊は今年11月に昭和基地に向けて出発します。隊員の候補者も固まってきているようです。

6月13日、極地研究所で宙空圏関連観測引継会が開催されました。私が南極で担当したオーロラ、地磁気、レーダーなどの観測を担当する予定の人へ、観測の説明、作業の概要、注意点などを説明する会です。

f:id:nankyoku_30nin:20170614130426j:plain

あわせて10以上のプロジェクトについて、国内の観測責任者が説明して、私のような帰ってきた人が補足します。

3時間あまりの説明会のあと、衛星回線で昭和基地と極地研究所を結んでテレビ会議です。 f:id:nankyoku_30nin:20170614124856j:plain

 

58次隊は着ぐるみで登場。そろそろミッドウィンターが近づいて、テンション上がり気味?

f:id:nankyoku_30nin:20170614124911j:plain

 

今年の昭和基地は雪が少ないらしい。除雪の苦労が減りそうで、なんとも羨ましいことです。