11年ぶりに先代の「しらせ」に乗艦してきました
現在、年に一度日本と南極を往復している砕氷船「しらせ」は二代目です。先代の「しらせ」は2008年3月に日本に帰ってきたのが最後の航海でした。私は第48次日本南極地域観測隊員として、その最後の航海に乗船していました。
役目を終えた先代「しらせ」は、ウェザーニュース社に買われて「SHIRASE」と名を変え、千葉県船橋市で保存されています。年に5回、チャレンジングSHIRASE という公開イベントがあり、6月8日・9日の週末が今年2回目のチャレンジングSHIRASE でした。
私の所属するNPO法人 富士山測候所を活用する会は2018年の「WNI気象文化大賞」を受賞しており、8日の土曜日、成果報告会が「SHIRASE」士官室で開催されました。そして、富士山環境研究センター特任研究員としての私から成果を報告することになりました。
報告会の始まる前に艦橋に行ってきました。
日本の南極行動は、観測隊、海上自衛隊ともに南緯55度を超えると「南極圏に入った」という扱いになるのです。
艦橋から正面には護衛艦「あまぎり」が見えます。この日は”マリンフェスタ2019 in船橋”という催しも同時に行われていて、「あまぎり」にも乗船体験ができたようです。
こうしてみると、護衛艦は細いですね。砕氷船は丸っこくないと氷に押しつぶされてしまうのですが。
成果報告の内容については、NPOのサイトに寄稿しました。
成果発表は1課題3分、と指定されていたのですが、皆さん訴えたいことが多く時間は押し気味。終了時にはチャレンジングSIRASEの公開時間もほぼ終わっていて、自分の生活していた船内を見て回ることはできませんでした。ちょっと残念ですが、なかば仕事のようなものですから、仕方ないですね。
南極観測隊員OBが海底探査コンテストで優勝!
国際大会で日本のチームが準優勝した、とのニュースがありました。
海底の地形を調べて地図を書く競争です。賞金総額がおよそ8億円、2等賞の日本のチームも1億円あまりをゲット!ということで話題になっているようですが、詳しくわかりやすい解説をNHKが出してくれています。
「深海探査レース 最終決戦へ」(くらし☆解説) | くらし☆解説 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室
- 優勝した国際チームは、14カ国が参加し、海上保安庁職員の住吉昌直さんは測量データの処理を担当していた。
とありました。もしかして、と思って、優勝した"GEBCO-NF Alumni Team"のwebサイトを見ると、やはり見覚えのある顔が、
GEBCO-NF Alumni Team for Shell Ocean Discovery XPRIZE
2015年、57次隊に夏隊員「海底地形調査・潮汐」の担当で参加されていた住吉さんでした。このサイトの写真、観測隊公式ジャンバーを着ているんじゃないかなあ。
一緒にしらせに乗って南極に向かった人が、チャンピオンチームの一員になるとは。
おめでとうございます!
NHK・ ダーウィンが来た! 「密着!南極生きもの大調査」
5月26日の放送当日に情報を得て、放送開始直前にあわてて録画しました。
第599回「密着!南極生きもの大調査」 ─ ダーウィンが来た! NHK
2017年から2018年に昭和基地に行った59次夏隊にはNHKエンタープライズからの参加があったので、その画像に期待していたのですが、まとまったものを見ることができました。
昭和基地周辺のいきものといえばペンギン。それに地味だけど大発見のコケボウズを紹介して、というのは想定内でしたが、生物が存在することのない南極大陸の内陸部、ドームふじ基地が出てくるとは思っていなかった。
わたしにとっては顔見知りの研究者や隊員が出てきて、楽しかったです。
6月1日(土) の午後5時30から再放送の予定があります。ペンギンに背負わせたカメラの画像は、餌の魚を捕まえるシーンなどもあって必見です。が、その前がプロ野球中継が延長されたらなくなっちゃうかも。
書評「考える脚 北極冒険家が考える、リスクとカネと歩くこと」
5月5日、北極冒険家の荻田泰永さんが「北極圏を目指す冒険ウォーク2019」のゴールに到達したとのこと。おつかれさまでした。
そのタイミングで、3月末に出た荻田さんの著書を読みました 。
主な感想は2つ。
「北極は怖い。南極のほうがマシ」
「冒険家の"旬"は短いのかも」
荻田さんは昨年末から今年のお正月にかけて、日本人として初めて「南極点無補給単独徒歩到達」を達成されています。
webで行程を見ていたのですが、出発してしばらくしたら「ああ、これは成功するだろうな 」とほぼ安心していました。南極大陸の危険な場所は、海岸から少し入ったところの急傾斜で、これを超えると足元のクレバスに落ちる、という心配はなくなります。
シロクマなど危ない動物がいるわけでもなく、夏であれば天候も安定しているし、怪我や病気がなければ、まず大丈夫。
一方で、北極は、いつ足元の氷が割れるかわからないので熟睡できない。ホッキョクグマもやってくる。わたしには、南極を歩くのはできなくはないですが、気の休まるときのない北極は、絶対無理ですねえ。
北極よりも遥かに容易だった「南極点無補給単独徒歩到達」を終えて帰国すると、取材が多くてびっくりしたとのこと。まあ、ふつうは北極と南極の危なさの違いはわからないですよね。私も片方しか知らないですが。
もうひとつ興味深かったのはお金を集める苦労で、実績がないとなかなか難しい。南極はそのわかりやすい実績を積むにはよいチャレンジだったのでは?と私は思っていました。
このあたりは、研究費を集める苦労にも通じるものがあります。私も今年応募する予定ですが「科研費」の採択率はだいたい30%。ある程度実績がないと通りにくい(お金を託してもらえない)です。
ただ、実績を積むには時間も必要で、その間に年も取ります。研究者はともかく、冒険家は体力の衰えとも向き合わないといけない。お金をゲットでき、かつ挑戦できる時間はそんなに長くないのではないでしょうか。(86歳で南米最高峰・アコンカグアに登ろうとした三浦雄一郎氏のような例もありますが。)
研究者の場合は、冒険家よりは活動できる期間が長いと言えるでしょうし、研究費には後進の育成に役立てるという意味も大きいです。わたしもずいぶんお世話になっています。若者と一緒に北極圏を歩く「北極圏を目指す冒険ウォーク2019」、という荻田さんの試みは、研究費を若手の研究に役立てようとする研究室に近いものを感じました。
1期性になるということ
遅ればせながら、人事異動がありました。
といっても、勤め先ではなくて、研究の身分です。
4月1日付で、認定NPO法人 富士山測候所を活用する会・富士山環境研究センターの特任研究員に任ぜられました。
一昨年の8月に、観測測器を回収する仕事で富士山に登ってきました。
「富士山測候所を活用する会」は、2004年に無人化された旧富士山測候所を高所の研究拠点にしよう、という団体です。
南極から帰国したあと、研究のご指導と頂いている先生が東京学芸大学から移籍されたので、私も2年間にわたり研究員としてお世話になったから離れることになりました。論文や学会での発表、そして研究費申請などなど、「無所属」では具合のよくないことがあります。いろいろな方のお気遣いにより、富士山環境研究センターの特任研究員を拝命することになりました。(無給ですが)
4月20日に運営会議があって、辞令を頂戴しました。
研究センターは今年度からスタートするもので、私は「1期生」になります。自分の研究を進めて、成果を出して、NPOにも私にもwin-winとなるように頑張っていかなくては。そして、目指せ科研費!
南極と富士山、ある意味似ている極地の環境のもとで、どんな違いを調査するか、研究のネタを考えているところです。