【書評】極 ― 白瀬中尉南極探検記 綱淵謙錠 著
アイスランドからの帰途、日の出の直前です。
秋の夜長、なのか?10時間あまりのフライト中の読書の話。
離着陸前後や空港での待ち時間など、パソコンを広げられない時間に読もうと、「極―白瀬中尉南極探検記 」(綱淵謙錠) をアイスランドに持っていきました。 単行本上下巻あわせて500ページ超なので、時間を持て余す機内にはぴったり。
単行本は昭和五十八年の刊行です。白瀬矗の生い立ちから千島列島での2年間の越冬、南極探検の試みと挫折、シドニーで冬を越して2度めの南進で南極大陸に上陸、そして帰国までが書かれています。
著者は私が昭和基地で読んだ白瀬矗による南極探検の公式記録「南極記」の他、白瀬矗や他の隊員の回顧録、さらに白瀬矗の生家・浄蓮寺に残されている電報綴や観測隊命令録などの一次資料に丹念にあたっています。
昨年6月にアップした南極記の書評では、
白瀬さんは、同時期の他国と比べてもごく貧しい装備で南極大陸への上陸を果たし、南緯80度5分まで進んで、人員を失うことなく帰ってきました。これを実現するリーダーシップは素晴らしい一方で、補佐役に恵まれなかった、あるいは育てられなかったように思います。国内と隊内に一人ずつ、腹心と呼べるスタッフが居ればと惜しまれます。
と書きましたが、この「極」を読むと、補佐役と目された人がいたことがわかります。探検隊の書記を任された多田恵一さんがその人です。
ただ、白瀬さんと多田さんは仲違いしてしまうのですね。氷に阻まれて引き返して、シドニーで冬を越す間に、多田さんはいったん帰国して事務処理(というには生臭い人事抗争もあったりするのですが)にあたります。そして2度めの南極行きを前に、白瀬隊長は多田書記を隊員として罷免する、という人事を発出します。
こんな目にあったら、強引に隊に合流してもうまくいくはずがない。南極行きは断念するのが普通だと思いますが、多田さんは書記からヒラ隊員に降格してまでも、南極探検に同行します。で、案の定、船内でも喧嘩して、帰国後は各々が本を出したり新聞紙上に告発したりの泥仕合。
ホントはどちらに理があり、どちらに非があったのか、本を一冊読んだとてわかるものではありません。が、印象として、「プライドの高いトップがデキる二番手に嫉妬する」という図式が思い浮かびました。現代でもよくある話ですね・・・。
そしてなによりも、幹部が二人して角突き合わせるこんな隊に参加した隊員諸氏に、心から同情します。 nankyoku-30nin.hatenablog.com
今週のお題「読書の秋」