世間がもし30人の基地だったら

日本南極地域観測隊に参加して、2015年12月に日本を出発しました。昭和基地で南極の冬を過ごして、2017年3月23日に帰国しました。帰ってからも南極に関わることがときどきあるので、更新を続けています。

極地の観光

5月19日(土)の午前、「南極 & 北極の魅力 講演会」でお話してきました。50人くらいの方にお集まりいただきました。

f:id:nankyoku_30nin:20180521061202j:plain

いつものように「南極観測隊第一次隊の記憶のある方いますか?」と尋ねてみたら、今回はちょっと少なめ。お若い方が多いようです。

 

講演の様子はyoutubeにupされています。


南極&北極の魅力講演会 - 第16回 - オーロラ観測と生活

 

さて、私の直後にお話しのあった、国立極地研究所を今年退職された石沢さんのお話しがなかなか面白かった。とくに南極観光についてのお話が興味深かったです。

  • 年に8万人。
  • お客さんは米国人がいちばん多く、最近は中国人が2位に浮上。
  • 日本からのお客さんは2%、だから年に800人。
  • 行き先はほとんどが、船でアクセスしやすい南極半島

    www.cruiselife.co.jp

  • 南極点に行ったり、南極大陸最高峰のビンソン・マシフ山に登ったりするツアーもある。
  • 昭和基地には過去に1回、米国からの旅行客が来た。昭和基地のまわりには、船の入ってきづらい定着氷があって、空路で人を運ぶのが大変でお金もかかるから、そのあとはお客さんが来たことはない。

 昭和基地はオーロラはよく見えますが、白夜の夏に訪れる観光客にとっては、そこまで魅力的ではないのでしょうね。オーロラはアラスカや北欧などで、もっとお安く楽しめますし。

私が初めて海外旅行にでかけたのは大学2年生のときで、行き先はアラスカ、目標がオーロラでした。お天気に恵まれて、オーロラは見えましたが、月の明るい時期に行ったのは失敗だったなあ。

f:id:nankyoku_30nin:20180521060711j:plain

1991年にアラスカ・フェアバンクス郊外で、フィルムカメラで撮った写真を、スキャンしたものです。

2016年に南極・昭和基地でデジカメで撮った写真とはだいぶ違います。

f:id:nankyoku_30nin:20180521060835j:plain

 が、現地で見上げるオーロラの感動は変わらないです。

空を見上げて

連休明けの7日に、青森で「日暈(ひがさ)」が見えた、というニュースがありました。

mainichi.jp

南極では、日暈は珍しいものではありません。昭和基地で2回、南極大陸で1回、帰りの船の上で1回、見た記事を書いています。

 

昭和基地で見た、いちばん見事だったのはこれ。 

f:id:nankyoku_30nin:20180508134750j:plain

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 環天頂アーク、タンジェントアーク、幻日など、いろんな光学現象が見えた日です。青森で見えたという「環水平アーク」は、太陽の下に見えるものなので、南極では太陽高度が足りなくて見えませんでした。

 

南極大陸で撮った日暈の写真は、極地研究振興会の2018年カレンダーに採用していただきました。 

f:id:nankyoku_30nin:20180508134332j:plain

 

船の上で見たときは、クジラが周囲を泳いでいたので、みんな空にはあまり関心がなかったような。

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 

これらの光学現象は、雲を形成する氷の粒に太陽の光があたって、光の進路が折れ曲がって、作られるものだそうです。

南極は寒いから、低い雲でも雲中は水ではなく氷になっているので、発生しやすいのでしょうか。それと、空を見上げることが多いから、気づきやすいのかもしれません。基地にいたら気づいた人が無線で「日暈(ひがさ)が見えるよ!」と教えてくれますし。

逆に、この日青森市にいても、見逃した人もいるかもしれませんね。

ときどきは、空を見上げてみましょうか。

よりもい記念の質問に答えます・その3 サングラスとかトイレとか


オープニングで女の子たちがサングラスを上げ下げしているシーンがありますが、あれは何をしているのでしょうか。

あれは…わかりません(きっぱり)。少なくとも私はあんなことしません。

とくに夏場の屋外では、天気のいいときはサングラスを外すことはありません。周りが雪や氷で真っ白で、極地の紫外線は強く、下手すると目に深刻なダメージを与えます。

壊れちゃうと昭和基地では入手できません。私は2016年の11月にamazonで注文して、私たちと交代する観測隊員あてに送ってもらいました。昭和基地に届いたのはクリスマスイブ。

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 

もう一つは汚い話なんですが、トイレです。オープニングで野外にトイレを作っていると思われるところがあります。もしそうだとすると、マイナス何十度の世界で大小をすることになりますが、お尻は凍らないのでしょうか。

屋外には作らないです。トイレ用のテントか、それらしいお部屋を用意します。

野外に用意して天候が崩れたら、雪で埋もれたり使えなくなっちゃいますからね。

f:id:nankyoku_30nin:20180507073644j:plain

雪上車に牽かれて進むトイレ。走行中は使いません。暖房はないので、マイナス30度以下でがんばる、ということにはなります。出したものがすぐに凍ってくれるので、扱いは楽になります。

 

f:id:nankyoku_30nin:20180507073631j:plain

トイレ用のテント。夏場の野外活動に使うことがありますが、風に弱い。

 

おしりが凍ったり、はしませんね。外気に触れる顔が凍らないのといっしょです。でも、まあ、あまり長い時間、感慨にふけるような余裕はないですな。

 

よりもい記念の質問に答えます・その2 バナナで…?

南極ではバナナで釘を打てるのか聞きたいです。劇中では見事に失敗していました。冷凍庫でがちがちに凍らせたバナナで釘を打つのはテレビで見たように思います。

 

1977年のコマーシャルですね。なんでこれを女子高生が知っておるのか?


1977年CM エクソンモービル モービル1 バナナで釘が打てます

釘を打つ音や、バラの花が壊れる音は、たぶん画面とは関係なくあとから入れたものでしょう。

 

マイナス40度になると、バナナで釘が打てます、とのことですが、そもそも南極に生のバナナを持ち込むのは至難の業。次の隊が来たときの第一便で、ちょっと黒くなったバナナが届いて歓声が上がりました。きゅうりにせよ大根にせよ生鮮野菜・果物は貴重品、凍らせて釘打ちなんて考えもしなかったわ。

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 私の南極滞在中はマイナス35度くらいが最低でした。なんであれ凍らせれば、打ち込む相手次第で貫通するでしょうね、薄くて柔らかい板だとか、発泡スチロールとか。


あと雪上車で旅行するときにもルート(通過点)を設定するものでしょうか。

はい、雪上車のルートの設定は重要です。積雪が多くて、すぐに道標が埋もれてしまうようなところでは、交換がラクな竹竿を使います。

f:id:nankyoku_30nin:20180429174102j:plain

左側の人の足元に小さく見えているのが、雪に埋もれたルート旗、その左が新しく建てた旗です。2年もすれば、これくらい雪がつもります。

そして、雪は氷となって、旗竿を呑み込んだまま海の方に流れて落ちていきます。

 

雪があまり積もらないところでは、ドラム缶がルートの目印に使われます。

f:id:nankyoku_30nin:20180429174022j:plain

大陸の風は、いつもだいたい同じ向きに吹いています。調査につかうサンプルを汚さないように、ルートの風上は立入禁止です。

よりもい記念の質問に答えます・その1 ペンギン

おまたせしました。よりもい記念でお寄せいただいた質問に答えていきます。

 

ペンギンに数メートル近くまで近寄ってはダメ、でも向こうが近づいてくる分にはOKというような話がありましたが、実際そうなのでしょうか。ペンギンがこっちに寄ってくるようなことはあるのでしょうか。そして・・臭いのでしょうか。

 

環境省のwebサイトに"観察や撮影の際には、ペンギンや鳥は5メートル、アザラシは15メートル程度の距離をとりましょう。"と注意が書いてあります。観測隊員も基本的には同じように注意されています。

環境省_南極の自然と環境保護 − 基本的な配慮事項

 

で、ペンギンにとって外敵は空からやって来る鳥(かもめの仲間)か、海中のアザラシ類か、なので、陸上には怖いものはないと思っているらしい。無警戒で散歩していて、人のいるほうに寄ってくることもあります。

f:id:nankyoku_30nin:20180429085612j:plain

 こんなふうにばったり出会ったときは、べつに臭くはありません。

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 

向こうから近寄ってきたらしょうがない、とはっきり言われるわけではないのですが、逃げ場がないこともありますし、野外で周辺の状況がわからないときに慌てて動くと危険なこともあるので、実際にはまあ、しょうがない。

「よりもい」における報瀬さんのように、うっかりペンギンに囲まれてしまうってことは、なかったですがね。

 

なお、科学的な調査をするときには、特別な許可を得て、近くまで行くことができます。南極観測隊員は例年、11月と12月に、卵を抱いたペンギンを数えたりする調査をします。このときは、ちょっと近くまでいかないといけません。

f:id:nankyoku_30nin:20180429085230j:plain

 

nankyoku-30nin.hatenablog.com

糞尿の香ばしいニオイはありますが、温度が低くて乾燥しているので、腐った匂いはしません。

nankyoku-30nin.hatenablog.com

 彼らの死体も腐らないので、そのまま風に吹かれてミイラ化していきます。  最後はカラカラの粉になって海に降って、プランクトンのエサになるのでしょう。